1-4.都vs区 仁義無き戦い?!
前回のブログでご紹介したように、区は、実は他の市と比べ都への依存度が高く、権限が制限されています。しかしながら、それでも区は歴史的な変遷の中で権限を徐々に得てきたのです。
今回は「都と区」の関係性に着目しながら、どのようにして現在に至ったのか、その歴史的プロセスを調べてみました!
それでは、戦前より順を追ってご紹介しましょう。
<戦前>都の「内部団体」としての区、誕生
東京にはじめて区制度が導入されたのは明治11(1878)年です。当時は、東京「府」の下に区が置かれていました。
東京「都」制度のもとで区が再編されたのは、戦時体制下の昭和18(1943)年のことです。
このとき35の区が置かれましたが、これらはいずれも自治的性格が弱く、都の「内部団体」と位置づけられていました。
<戦後改革>より高度な自治の可能性に膨らむ期待
昭和20(1945)年に戦争が終わりさまざまな改革が行われることとなりましたが、地方自治制度改革もその例外ではありませんでした。
昭和21年(1946)年に旧東京都制が廃止され、翌年、地方自治法が制定されました。このとき旧35区は22区に再編され、同年に練馬区が板橋区から分離独立する形で現在の23区が生まれました。
従来は都の「内部団体」であった区でしたが、この時点で「特別区」となり、「一般的な市と同格の地方公共団体」となりました。区長が公選になり、区議会の条例制定権も認められました。一方で、上下水道や交通など事務体制については区の自治が認められず、引き続き都の管轄となりました。
そのため、特別区と東京都の間では区への事務・財源の移譲を求める激しい対立が生じていました。
<逆コース改革>逆戻り―対立の時代
この対立は、特別区にさらなる自治を認める方向ではなく、逆に、特別区の権限を奪う方向で決着が図られました。
昭和27(1952)年、地方自治法の改正がおこなわれ、区長公選が廃止されました(前回のブログでご紹介しましたね)。さらに事務体制については、都と特別区が一体化を強め、都が特別区の業務を「吸収」するような形になりました。これは特別区の事務の移譲を求めた動きとは完全に逆行しています。
こうして、特別区はふたたび「都の内部機構」としての性格を強めました。
特別区の側もこの状況に黙っていたわけではありません。当然と言えば当然ですが、体制変革をめざす動きは特別区の側から起こりました。
特別区の区議会が昭和32(1957)年に設置した「特別区制調査特別委員会」が中心組織となって具体的改革に取り組むことになりました。このような特別区側の運動を受けて、都も昭和35(1960)年に「都区連絡懇談会」、「都区財政協議会」を設置しました。
東京オリンピックが昭和39(1964)年に迫るなかで、都が区レベルの事務作業を抱え込みすぎているという都側の事情もあって、昭和36(1961)年には都道の一部、保育所、普通河川の維持・管理の事務が区に移管されました。
とはいえ、首長は公選にはならず、依然として都の権限が非常に強い状態が続いていたため、対立が続いていました。
<50年改革>今度こそ自治へ
ついに、都と区の関係性が大きく改善されるのは昭和50(1975)年のことです。
「50年改革」と呼ばれるこの改革で、特別区には以下のことが認められました。
1.区長公選の復活
2.従来「都の職員」として特別区の事務を行っていた職員が、特別区の職員に(区長が人事権を持つ)
3.事務の大幅な移管
最も重大なのは、やはり区長公選の復活でしょう。他の市と同様に区長が選挙で選ばれるようになりました。
また、事務分野についても、都が23区全体で管理したほうがよいとされた事項(消防、廃棄物処理、上下水道など)を除き、大幅に特別区に移管されました。
事務分野で大幅な移管が行われた一方で、財政分野については、前回のブログでご紹介した「都区財政調整制度」が設定され、都に大きく依存する財政体制が残りました。
<現在>区は都から独立するか?
いま、特別区は「基礎的自治体」と法律上も位置づけられ、市町村に準ずる権限が認められています(平成10(1998)年地方自治法改正、平成12(2000)年より実施)。
とはいえ、「市町村に”準ずる”」という表現からもわかるように、いまだに財政制度などで他の市町村と比較すると特別区の権限が脆弱であるのも事実です。
この現状を打破しようと、なかには公益財団法人特別区協議会のように、特別区制度そのものを廃止して市制度を導入しようという動きも残っています。
ちなみに渋谷区には現在「自治権確立特別委員会」があり、都と区の関係性について検討しています。
今のところ、直ちに区と都が大々的に戦いを始めることは想定しづらいですが、今後も区と都、他の市町村がどのような関係になっていくのかについては注目ですね!大きな歴史の転換点に実は出会っているかも……?