<1分で読めるあらすじ>
画家である「私」は、友人の医師・高峰の手術の様子を見学することになった。
外科室にて、手術が始まろうとする。
しかし、患者である夫人は、麻酔剤(ねむりぐすり)を打たれることを拒む。
「私はね、心に一つ秘密がある。麻酔剤は譫言(うわごと)を謂うと申すから、それがこわくってなりません。どうぞもう、眠らずにお療治ができないようなら、もうもう快(なお)らんでもいい、よしてください」
看護婦の説得に耳を傾けない夫人。
一刻を争う病であるため、高峰は麻酔を打つことなく夫人の体にメスを入れる。
その間夫人は痛みに暴れることもなく、足の指さえ動かさない。
しかし、途中で「あなたは、私を知りますまい!」と言って、
自らメスで体を裂き、息を引き取ってしまう……。
実は、9年前に一度すれ違い、高峰が「真の美の人」と想っていた女性が夫人だったのだ。
夫人の亡くなったその日、高峰もこの世を去った。
<ナツミの補足>
お互いに「ひとめぼれ」で想い続けていたという純愛物語。
しかし、そのことをお互いずっと知らなかった。
その結果として双方が死んでしまうという悲しい話ですね。
少しだけ補足。
1.夫人は、死なずに高峰と話すことはできなかったのか?
→明治時代では、「医師」という身分の高い相手とは簡単に話せなかったのだろうと思います。死によって、自らのことを忘れられないようにするという考えもあったのかもしれません。また、本文では夫人が「うれしげに」息を引き取ったという描写がされています。深刻な病を患っていましたし、最期を高峰に委ねたかったのでしょう。
2.高峰は手術の際に、昔出会った美しい女性がこの夫人だと気づいていたのか?
→高峰は夫人の後を追って亡くなったと考えられますので、気づいたのだと思います。
9年間「ひとめぼれ」で想い続けられるものなのですね。純愛!
誰にも言えない秘密(高峰への気持ち)があるから、譫言(うわごと)を言ってしまう麻酔はイヤ。
なんて、乙女……。
でも、麻酔なしで体にメスを入れられるなんて、夫人の意志の強さには脱帽です。
話の展開が早く読みやすいので、文語体の苦手な方でも入りやすいと思います!
—作者プロフィール—
泉 鏡花(いずみ きょうか)
1873年(明治6年)11月4日 – 1939年(昭和14年)9月7日)。
明治後期から昭和初期にかけて活躍した小説家。
代表作:『高野聖』『外科室』『夜行巡査』